2019/02/25 21:16
3、4年前、バスで渋谷に向かっていたときのこと。乗客は私を含め数人程度。空いた車内でした。私は真ん中より少し後ろの、一段上がってすぐの窓際に座って文庫本を読んでいました。
三軒茶屋あたりだったか、男子高校生3人が喋りながら乗り込んできました。制服姿で、顔は見ていないのですが声が太く、中学生ではなかったように思います。私の横を通り過ぎ、通路を挟んですぐ斜め後ろに座った彼ら。バスが発車すると、一人の子がささやき声で他の二人にこう言ったのです。
雲行きが怪しくなりました。もう1人が続けます。「っていうか、お前の平均点低すぎじゃね?」
「あの本読んでるお姉さん、綺麗じゃね?」
え、まさか私? つい目線だけ上げて前方の乗客を確認してしまいます。本を読んでいるのは私だけ。びっくりと同時に小さな嬉しさが込み上げます。「お姉さん」なんて言われることもあまり無いので、それも嬉しかった。
そうなると読んでいた文庫の内容もスッ飛んでしまい、あとはページに目だけ落とし、耳をそば立てました。なんせ、怖くもあったのです。男の子がそう言ったあと、確認するように3人の視線がこちらに向けられたのを感じましたから。他の2人がなんと言うのか…。
まず1人がこう返しました。「えっ、普通じゃね?」
そのあとのやりとりはごちゃごちゃと聞き取れませんでしたが、下手に聞こえなくて良かったなと思います。あっという間に男子高校生らの話題は他へ移ったようで、そのまま私も彼らも渋谷に着き、私は逃げるようにバスを降りたのでした。
そのときは結局複雑な気分でいましたが、今はあの最初の男の子に版画のひと作品でも贈呈したい気持ちです。
なににせよ、外で他人の容姿についてなど話題にするもんじゃないってことですよね。案外聞こえていたりするものです。
木版画「厄年なんて怖くない」 2015年