2022/02/08 22:53

今回の個展、実際に予定を組んだのが去年の4月。打ち合わせは7月でした。

白黒で行こうと思うけれど、どうですかねぇ?とオーナーの藤波さんに相談しました。
自分の中ではほとんど決定事項だったので相談というよりは半分報告のようでもありました。
ただ、白黒作品だけの展示は売上げ面で少し心配がありましたし、普段多色版画を好んでくれる人たちに楽しんでもらえるのかを考えると少し迷いもありました。

白黒でもカラーでも保立さんが作りたいと思うものを作ってください、と藤波さんはとことん寛容でした。まずは作家が楽しんで制作することが一番大事です、と。

前回の初めてのOPA galleryでの個展はというと、なんやかんやプレッシャーの中制作し身体も疲れて、搬入日の夜人生初丹毒にかかり高熱でダウンしてしまったのでした。肝心の会期中はほとんど家で寝て過ごし、皮膚科で抗生剤の点滴を二度受け、ギリギリ最終日のみ在廊という、トホホな思い出です。

そんなこともあり、今回の打ち合わせが終わったあとだったか、スマホのリマインダーに「2022OPA自分のため」と打ち込みました。
こういうリマインダー的メモを、最近は少し減りましたが、私は結構するほうです。
特に20代の頃は手帳が「〜しないこと!」「〜すべし!」みたいなメモで埋め尽くされていました。
今見返してみると、あれはもはやリマインダーではなく自分に課した呪いだったな……と思います。厳しすぎるでしょと。
ちなみに、今部屋の作業机の目の前には「やりたくないことはやらなくてOK!」というメモが貼られています。

さて、今回の個展はそんなわけで、とにかく制作を楽しむことを優先しました。自分を喜ばせる作業。
もちろん、良い作品を作りたい。ここは彫ろうか残そうかとかそういうことには頭を悩ませましたが、少なくとも、誰の期待に応えるわけでもなく思うままに制作できたかなと思います。

ときどき我に返って、こんな誰が喜ぶかもわからないような売れるかもわからないようなものを、嬉々として彫って何枚も摺りあげて……一体全体なにやってんだかなと不安になったりもしました。

知ったこっちゃない、なにせ楽しい、これは自分を満たしていく作業なんだ、と力強く解放的な気持ちが半分。これはただの独りよがりなのでは、しかも赤字で終わるのでは、という孤独と不安が少々。あとはただただ淡々と準備を進めていく。
去年はそんな制作期間でした。

今回は在廊も純粋に楽しみました。
コロナ禍での開催というヤキモキは一昨年、去年と味わい尽くしたところもあり、麻痺もしているのか、オミクロン拡大と時期がまるかぶりしたわりにはそこまで気持ちに落ち込みはありませんでした。
ギャラリー中央に置いた椅子に座って静かにひとり展示を眺めると、純粋に喜びが胸に広がりました。よく作ったねぇという労いの気持ちも。作品に対してふつふつわいてくる反省も。

お客さんにも楽しんで見てもらえたようで、とにかく嬉しかったです。何度もジーンときました。
良い言葉をたくさんいただきましたし、そんなお客さんの言葉を素直に受け取ることが出来た気がします。
色が見えてくる、という人が何人かいたのも印象的でした。モノクロ表現の可能性にもですが、人間の想像力には心が躍ります。

それにしても、不思議な職業というか行為というか。ある意味自分勝手に作ったものを、場所を借り、並べて、見てもらう、見に来てもらうだなんて。
本当に贅沢なことです。ギャラリーにもお客さんにも感謝があるばかり。
ご来場いただき、また、たくさんのお気遣いをいただき、本当にありがとうございました。