2022/02/27 19:03


誰々さんにお〜いお茶をいただいたの、と母が冷蔵庫から細いペットボトルを取り出しグラスに注いでくれた。
ペットボトルのお茶を買う機会がずいぶんと減り、お〜いお茶も飲むのはどのくらいぶりだろうか。もう長いこと飲んでいなかった。

グラスで飲む冷えたお〜いお茶はとても美味しかったし、それ以上に懐かしい味がした。
旅行の味。電車の車窓から眺める停車中のホーム、海、山、民家、夏休み。
少し遠いどこか別の町に向かう、旅の道中を思い出すような味がした。
一気に飲み干し、良い気分になった。

先日の個展が終わったあと、そんな旅気分をまた味わいたくてお〜いお茶をスーパーに買いに行った。
「体脂肪を減らす」というポップについ引き寄せられ、お〜いお茶 濃い茶のほうを買ってみたところ、残念ながら濃い茶は懐かしい旅の味はしなかった。原材料を見ると抹茶も入っている。

数日後、用賀駅から世田谷美術館までの道のりにコンビニで生茶を買い、飲みながら歩いた。甘くて、味が濃い気がした。でも妙な味だなとも思った。
後日、興味がわいてスーパーで4種の緑茶ペットボトルを1本ずつ買い揃え、家でひとり、利き茶をすることにした。
伊右衛門、お〜いお茶、生茶、綾鷹。それぞれのボトルの前に湯呑み茶碗を並べる。

実験気分でまず伊右衛門をひとくち、ふたくち。なるほど、なるほど。
次にお〜いお茶を飲むと、たしかに味は違う。ただ、どう違うのか、言語化するのが案外難しい。
お〜いお茶を続けてふたくち飲むと、最初の伊右衛門の味は忘れてしまった。
生茶、綾鷹も、ひとくち目の個性は判別できても、ふたくち目にはそれに慣れて全部似たように感じてしまう。
左から右、右から左、と4本を少しずつ飲み続け、もう、わからない。わかるけど、わからない。だんだん身体も冷えてきた。

ボトルと湯呑みはそのままにして一旦中断し、実家で切り分けてもらったサミットのアップルパイを温めた。
アップルパイを口いっぱいに頬張る。あぁ、うまい。
何の気なしに、目の前の伊右衛門を注いで流し込む。あぁ、うまい!
アップルパイ、お茶、アップルパイ、お茶。
結局のところアップルパイを食べながら飲むお茶はどれも美味しかった。

でも、4種飲み切って思うのは、強いて選ぶなら、やっぱり当たり障りのない味のお〜いお茶が今は好きかな。
飲み比べ中は旅気分なんてすっかり忘れていたけれど。
ちなみに、この4本中、3本には「よく振ってからお飲みください」の表記があり、唯一振らなくていいのは、お〜いお茶である。

お礼状「お茶の味」2022年