2023/01/19 09:09

昨日、ちょっと可笑しな場面に遭遇した。

お昼過ぎの駅前。信号機のない横断歩道で、ふたりのおじさんの意地と意地がぶつかり合っていた。両者初老と思われる。


「なぁんだよ、行ってくれよ」と、口を尖らせ声を張り上げる、歩道に立つおじさん。

横断歩道のすぐ手前に一時停止しているバスが一台あり、その運転手に向かって叫んでいた。左手でバスの発車を促す手振りをしながら同じセリフを繰り返す。「なぁんだよ、行ってくれよ」の、一点張りだ。

バスを先に行かせたい、それから渡りたい、ということのようだった。歩道にはもうひとり、女性が少し離れたところで横断を迷っていた。


一方、運転手のおじさんは、規則厳守。頑としてバスを走らせない。今思えばエンジンも切っていた。歩道のおじさんを冷めた目で見おろし、ときどき何かブツブツ言っている。何があっても歩行者優先、ということなのだろう。


そうとは知らず、渡るつもりでそこへ歩いてきた私だった。反対側の歩道からふたりを交互に見て、状況を理解した。

バスより先に渡りたくないおじさんと、先に渡らせたいバスのおじさん。


どうせならバスを先に行かせようと思い、立ち止まっていると、気づいた運転手が私に向かってお先にどうぞの手振りをするもので、それではと反射的に会釈し歩き出してしまった。そそくさと私だけ先に渡らせてもらった。

渡り終えると再び「なぁんだよ、先に行ってくれよ」が背中のほうから聞こえてきて、じわじわ笑いが込み上げた。


あのあとどちらが根負けしたのだろう。

もし私も渡らずにお先にどうぞ返しをしていたら、運転手はどうしていただろうか。

きっと発車させるわけはない。そういう顔を、運転手はしていた。


引き下がれないふたりの気持ちはよく分かる。

意地の張り合いはなんともしぶとい。