2023/11/10 18:07
過ぎし夏の日のこと。
近所の喫茶店で、常連らしき背の高いおじいさんが雨を待ち望んでいた。
待ち望んでいた、とは言い切れないがしきりに雨を気に掛けていた。晴れが続いていた。
カウンター内にいるお店の女性に向かって半分独り言のように、おじいさんは話しかける。
「雨降らないねえ。次はいつ雨降るのかね? それにしても、雨降らないねえ。」
お店の女性は手を動かしながら、その都度「そうですねえ」とおじいさんの方を見たり見なかったり、相槌を打つ。
飲み物が席に運ばれてくるときになっても、おじいさんまだ言ってる。
「だって無いでしょう? 雨情報は。」
雨情報、という言葉選びが妙に印象深く、私は側でしばらく反芻していた。
「雨情報」っていう作品いつか作れそう、なんてついつい思ったりした。
以来、雨が降るたび、このなんてことない場面と「雨情報」というワードがふと思い出される。
「おじいさんと雨情報」なんてすれば、物語の一場面として今にも絵の構図が立ち上がってきそう、そんな気がする。