2023/11/15 21:32
前野健太ソロライブ。11月、月曜の夜。
この日は墓参りだった。
毎年紅葉の頃、家族で御殿場の山中にある墓地へ、母方の祖父母、大叔母の墓参りに行く。
兄の車、またはレンタカーで、日帰り。
今年は次兄と私の都合がつかず、母と長兄だけで行ってもらった。
墓石の後ろに立つ2人の記念写真がさっそくLINEに届いた。
私は日が沈む頃、ライブハウスに向かうべく電車に乗り込み、そこでふと考えた。
いつも墓前で祖母に近況報告をしている。今年は、今ここでそれをしよう、と思った。
車内で目をつむり、心の中で話しかける。おばあちゃん、、、
仕事、生活の近況報告。そして、今からライブに行くところだよ、と。
するとどうでしょう。
ライブ中に思いがけず、祖母の存在が浮かび上がるようなMCを聞くことになった。
マエケンは以前からライブやラジオで、ことあるごとにキヨーレオピンを勧めてきた。
今でこそキヨーレオピンと聞くとマエケンを連想してしまうが、もともと私にとってキヨーレオピンといえば祖母だった。
晩年、祖母はキヨーレオピンを愛飲していた。白いパジャマ姿の祖母が、夜寝る前キッチンで黒い臭い液体を透明のカプセルに注入する様子は、子供の私にはとても謎めいて見えた。
去年の年末ライブで、念押しのようにレオピンを推すマエケンに背中を押され、疲れの溜まっていた私はその翌日近所の薬局でとうとう購入した。キヨーレオピンNEO。
効いてくれれば万々歳だが、それより思い出作りみたいなものさ、と思って飲み始めた。
それから数箱は買っただろうか。効果はたぶん、あんまり無い。私には。
今ある1本を最後に卒業する。私にもっと必要なのは、鉄分。
ともかく、MCにキヨーレオピンの話が出るのはいつものこと。
「ちなみに飲んでる人っています?」観客を見渡しマエケンが不意に問いかけたので、私はドキッとした。そして素直に手を挙げた。手を挙げたのは私ひとりで、恥ずかしかった。ひとりいたことにマエケンは驚いていた。
「ではそのまま続けてください」と笑顔で言われた。
さらに驚いたのは、というか笑っちゃったのは、その後だ。
あらたにすごいドリンクを発見しました、と言うマエケンが満を持して紹介したのは、クロレラだった。
私は吹き出しそうになった。クロレラといえば、これまた祖母である。
祖母は一時期クロレラという緑の液体を飲んでいた。
それ自体の記憶は曖昧だが、祖母が亡くなったあと、母が一時期飲んでいたのを覚えている。「おばあちゃんが飲んでいたのよ」と言って飲んでいた。緑の錠剤だったかもしれない。一度くらい、私も飲んだかもしれない。
キヨーレオピンに、クロレラに。祖母と同じコースじゃないか。
これでもまだ44歳のマエケン、いやはや大丈夫だろうか。と思いながら私は観客と共に笑った。
が、帰りの電車ではたとよぎった。
まるでこれは、祖母がマエケンの体を借りて私の近況報告に応えてくれた、みたいじゃないか。
手を挙げたあのとき、こちらを向いて目が合った、あれは祖母だったのだと。
改めて笑いが込み上げた。おばあちゃんを思い浮かべた。
ライブ、プラスαで温かい気持ちが体に巡った夜だった。
ちなみに私はキヨーレオピンを、キヨと呼んでいる。
