2023/12/30 20:30

前野健太年末ライブ。昼の吉祥寺、MANDA-LA2。

開演の約15分前、私としては普段より少し早めに行くと、すでに席がギュウギュウに埋まっていて焦った。

中ほどにポツンとひとつ空いた席を見つけ、ねじり入るように座らせてもらった。


ひと安心しホットレモネードをすすっていると、背後に座る若い男性ふたり連れの会話が自然と耳に入ってきた。

「今年一年、どうだった? 何か目標とか、たてた? 」

「いやぁ、たててない。もう生きてくだけで必死で」

ふたりとも優しい声だった。聞いてじんわり、胸に沁み入る。


今年最後のライブは、とても、とても良かった。

やっぱり一曲一曲が名曲。つくづくそう思った。


そもそもひとつの歌が一体全体どうやってゼロから作られていくものなのか、どういう構成で曲が成り立っているのか、私は全然知らない。

ギターの上手い下手も、弾き方の違いも、私にはよくわからない。

ギターのお尻に差し込まれたあの黒いコードが、どこに繋がれて、何の役目があるのかも実は知らない。

そんな私が名曲と言ったところで、説得力も何も無いだろうけど、とにかくもう名曲揃いとしか思えない。

マエケン曰く、ライブで歌を歌い重ねていくと、歌が成長するのだとか。ならば聴き重ねてきた歌もまた、私の中で成長を続けていることになる。

音の響きが好きとか、メロディーが飽きないとか、血が沸き立つとか、歌詞の物語とか私の感じ得るそういうこと以外に、これこれこんな理由で前野健太の歌はすごいんだよ、と一度誰かに教えてもらいたい。


終盤のMC。ライブを入れる理由について、自分は "歌っていないとダメになっちゃう" から、とマエケンが言う。たしかに。分かる気もする。

たとえばそれは、私が "版画を作っていないとダメになっちゃう" のと似たような意味合いだろうか。水泳の息継ぎみたいな、生きるための行為だろうか。

そうだとしても、ダメになっちゃう具合がきっと私とはまた種類の異なるものに違いない。

歌を歌わないマエケンが実際どれほどダメになっちゃうのか、堕落していってしまうのか、私には想像が及ばない。


今、ある場面を不意に思い返している。

以前、なむはむだはむのイベント会場で、岩井秀人さんがマエケンのことを "全く役に立たない、ひげのおじさん" と称して、その場が笑いに包まれたことを。

いや、"役立たずの、ひげのおじさん" だったか、もしくは "役に立たない、ひげ" だったか、ちょっと覚えていないが。

わざわざ書き留めるようなことではなかったので、記憶が曖昧で、違ったら実に申し訳ない。


どうしようもなくダメになっちゃうマエケンが間違いなくいる。

いるのだろうけど、目の前でそう言い切ってくれる間柄の人がいるなんて、なんて素晴らしいことだろう。なんて羨ましいことだろう。

どうしようもない人間が、それでもそこにいる、というのは裏を返せばつまり、マエケンがいないと完成しない何かがある、ってことだもの。必要とされている、ってことだもの。

歌っても歌っていなくても、マエケンは大丈夫。たぶん、絶対。無責任にも私にはそう思える。


この一年、いや、二年、三年。マエケンの歌にライブに、幾度となく救われてきた。

一生懸命な瞬間を持っているところが、マエケンの最大の魅力のひとつなんじゃないかな。

生きるっていうのを体現しているところ。それも人の前に立って。

誰かがすぐ真似できるようなことでは到底ない。

私はそれを本当に尊敬しているし、心から称賛し、最大級の感謝を伝えたい。