2024/02/23 20:06
依頼で椿の版画を作ることになった。
ラフを描く前にまずは実物を見てみようと外に出た。
近所で椿のある場所はいくつか目星がついている。いつもの散歩の成果というわけだ。
ところが、最初に向かった場所で咲いていたのは思い描いていた椿とは少し違う花だった。これは山茶花なのだろうか。茶色く枯れ始めている。
花びらが一枚一枚散っていたら山茶花、花ごとボトッと落ちていたら椿、というのは聞いたことがあるので、その見分け方だけで判別するならこの木は山茶花ということになる。
そのあとも思い浮かぶ椿スポットを順々に歩いてまわったが、普段椿だと思って通り過ぎていたそのほとんどが実は山茶花のようだった。
参ったなあ。これぞ椿、という木が見当たらない。
もういいか、山茶花で。こんな似てるんだし。別に写生をするわけでもないし。
と思ったけど、やっぱり椿の花と葉、枝ぶりを間近に見ておきたかった。
一か八か花屋さんで椿はありますかと聞いてみると、今は無いですねえとのことだった。
制作日数も限られている。こうなったら図鑑に頼ろう。
図書館の園芸コーナーに『最新 日本ツバキ図鑑』というずっしりした素晴らしい図鑑を見つけた。花のアップの写真がとにかくものすごく沢山載っている。約1000種の品種ひとつひとつに名前が付いていて、椿って花も葉もこんなに多様な色と形状があるのかと驚いた。カーネーションみたいにひらひらした椿もあった。
駅からの帰り道、ふと小さな空き地に目をやると深緑の葉がこんもり密集した一本の木が立っていて、これは一目で椿だと確信した。
近づいてみるとボトッと白い花がひとつ落ちている。木に花はまだほとんど咲いておらず、蕾がいくつか膨らんで淡く色づいていた。なあんだ、こんなに近くにあったとは。
私にはもうこの図鑑があるから大丈夫と思うと発見の喜びは半減したけど、やっぱり実物を見ておくと安心する。
実物は立体的。当たり前だけど。これを私は平面にしていくんだなあ。自分なりのやり方で。
それにしても今回は椿を求める旅だったから、これも山茶花、あれも山茶花と何度もがっかりなんかして、山茶花には申し訳なかった。
図鑑の巻末には山茶花も100種類くらい載っている。中にはどう見てもまるで椿、というのもあるのだけど。
いつか山茶花の版画も作ろうと思う。