2024/09/01 14:40
この夏私をゾッとさせたこと、それは台所のゴミ箱にゴキブリが卵を産みつけたことだった。
ある日、ゴミ箱の白い蓋を開けると裏側にゴマがいくつか飛び散っていた。ゴマのように見えた。金ゴマ。
でもゴマより少し細長い。なんだろう。
おかしいな、昨日までは無かったのに。嫌な予感がした。
なんらかの種子だろうか、そう思いたかった。
この暑さだ。ゴミ箱の中で生ごみが熟成して、何か弾け散ったのでは。
最近花などは買っていない。他に何を捨てたっけ。
ピーマンの種が干からびて縮んで、茶色くなった? そういうのも真面目に考えた。
よくよく見ると、ゴミ袋の内側にもいくつか同じツブツブがくっついている。
ゴミ袋を取り出すと、ゴミ箱の内側にもパラパラとひっついていた。ゾワゾワしてきた。
ティッシュで一粒つまんで潰してみると、ジュワッと白っぽい液体が出てきた。ひぃー!
明らかに虫の卵だ。きっとゴキブリに違いない。色的にも。
そうなると居ても立ってもいられない。
ティッシュで一粒一粒つまみ取っていくものの、ツブツブした卵は外側がカラカラ乾いていてうまく掴めない。
これでは途方も無い。初めてのことにショックで胸が苦しい。
掃除機も一瞬よぎったがゴキの卵を掃除機の中に吸い集めたくはない。
迷った末、お風呂場で洗い流すことにした。
今思えばまずはスプレーで息の根を止めてから洗い流すのが正解だったのかもしれないが、思いつかなかった。
シャワーでとにかく念入りに洗い流した。一粒たりとも残すまい。
ゴミ箱の四隅には版画で使うMDFの木屑なんかも詰まっていて、前から気になっていたそれもブラシで綺麗に落とした。
生ごみの臭いも取れてスッキリ。これで一安心。
卵がひっついたゴミ袋は口をギュッと結んでマンションのゴミ置き場へ。
一件落着。全身の力が抜けた。
ベッドにドスンと腰を下ろして台所を眺めた。
昨夜にでも私の知らぬ間に親ゴキブリが産卵していたということか。嫌でもその気配を感じる。
立ち上がってシンク下、ガス台の下、食器棚の下、靴箱の下、あらゆる下を恐る恐る覗いたが親ゴキとは対面しなかった。
その日、これもいい機会だと急遽台所を整理整頓することにした。
食器、タッパー、調味料、鍋、フライパンなどなど配置換え。
音楽流していい気分で拭き掃除もして、冷房のかかった部屋で汗だくになった。
狭い台所はおかげで今までより少しだけ使いやすくなった。
しばらくの間、ゴミ箱を開けるたび少し身構えた。
忘れもしない夏の思い出である。