2024/10/02 20:04

その昔、実家から数駅隣にあるアウトドアショップの接客アルバイトの面接を受け、採用された。

ほんの2週間くらいだったか、たった数日働いて向いていないと思い、たまらず忍耐も無く辞めることにした。


開店前に勇気を振り絞って辞意を伝えたその日の勤務時間途中、何の糸が切れたのか分からぬが私は、「バイト代は要らないのでもう今日帰ってもいいですか」と社員の一人にバカ正直に申し出たのであった。非常識極まりない、若き日の自分。

最近ふとこの出来事を思い出し、叫び出したいくらいに恥ずかしくなった。


若き日、といってもこれが20代もおわりの頃の話なので目も当てられない。

社員やバイトの人たちに嫌な人が居たとかではない。見たこともないアウトドアグッズの知識をひとつひとつ覚える気力が湧かず途方に暮れた。応募するときは、なんだか自分にも出来るような気がしちゃったんだなあ。


帰ってもいいですかと私に聞かれたその男性社員、呆れと怒りと失望と何より驚きが入り混じったような表情で一瞬固まってしまった。いつも穏やかな口調で丁寧に仕事を教えてくれる人だった。

そして、「あのね、社会人として、そんな無責任なことはないです」と静かにきちんと私は叱られた。そりゃそうだ。

今思えばその社員と当時の私、歳はそう変わらなかったんじゃないか。なんだこいつは、と相当面食らったに違いない。

私もよくあんなことを真面目に聞けたものだな。笑えてきちゃう、笑えないけど。


そこでの仕事はもう何にも思い出せない。

ひとつ記憶に刻まれているのは、スタッフルームのドアの内側に貼られていた手描きのニコちゃんマーク。

「このドアを一歩出たら笑顔で接客」という意味のリマインダーとして貼られていた。

私は友人といるときなどはどちらかといえばよく笑うほうだと思う。ただ接客ではどうしても笑顔が作れずに、そのニコちゃんマークを見ながらドアを押し開けるたびいたたまれない気持ちになったのだった。


お店は今はもう閉店しているらしい。

私の名前と言動は、どうか忘れ去っていてほしい。