2024/11/08 21:28
昨夜は待ちに待った前野健太ニューアルバム『営業中』発売記念ツアー、武蔵野公会堂。めちゃくちゃ楽しかった。
前作のアルバムタイトル曲「ワイチャイ」からライブが始まり、初っ端から感じ入ってしまった。ツアーを経てワイチャイがこんなにも豊かに語りかけてくる歌に育ったのかと。
『営業中』がもたらした変化なのか何なのか、ステージ上のマエケンはとてもいい具合に柔らかく自然だった。変態性や狂気や抑えきれない爆発感に、鳥かごで羽を休める妖精のようなフェアリー感。それらがだんだん中和されてきたというか。持って生まれた要素はそのままに。
私は近頃ちょっとマエケンの歌をマエケン主体で聴きすぎている自覚があって、それをどう脱すればいいものかと考えていたところだった。こんなことがあったのだろうか、あんなことがあったのだろうか、そういう妄想を広げても結局キリがない。
歌の正しい聴き方なんてものはもちろん無いだろうし、どっぷりマエケンになったつもりで聴くもよし、客観的に聴くもよし。でも昨夜のライブで、ああ歌ってやっぱり自分の人生と重ねて聴くのが一番だと思った。マエケンの物語ではなく私の物語なのだと。
私は私の物語を生きるんだ、と思うとじわじわ嬉しくなって視界が開けた。ライトがとても眩しかった。
同じ時代にマエケンが歌っている。なんと心強いことか。
版画を作っていると、何をもって完成と呼ぶんだろうってときどき考える。
たった今摺り上げたばかりの作品を手に持って眺めるとき、タイトルとサインを書き入れるとき、額装して展示したとき、見た人の心が動いたとき、誰かが買って家に飾ってくれたとき……。完成の瞬間ってたぶん何段階もある。
きっと歌もそうなんじゃないかなと思う。歌ほど変容しながらエンドレスに完成し続けていくものはないんじゃないかと。
『営業中』はうっかりしていると聴き逃してしまいそうなくらい短い曲が並ぶアルバムで、それでいて名曲揃い。これもまたぐんぐん変容して豊かに育っていくに違いない。
会場いっぱいの観客がマエケンを見守る感じがなんとも温かい。今も今までもマエケンはやっぱりスターだな。
切なくも清々しい素晴らしいライブだった。