2025/01/18 20:23
「ねぇ、それ買うんだったら何かひとつ捨ててね」
昨年末、ユニクロの店内ですれ違った年配女性がその夫と思われる男性に向けて放ったこのセリフが面白く忘れられない。誰もが一度は耳にしたことのあるような、または同じことを誰かしらに言った経験があるような、どの家庭からも聞こえてきそうなセリフ。
ズボンだかセーターだか腕に引っ掛けた男性は無言であった。何を思っていたかは分からぬが、ふたりに険悪な雰囲気は無いところが良かった。毎度お馴染みのやりとりなのかもしれない。
昨年はあまり買い物をしない一年だった。新しいものを買って古いものを手放す、たしかにそういう循環がときどき必要な気がする。と思ってのことではないが、ちょうど先日新しい靴下を迎え入れ、ゴムの伸び切った靴下にさよならをした。
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同じく昨年末のこと。ドアのすぐ横、座席の一番端に座って私は電車に揺られていた。
ある駅で、綺麗なコートに赤いマフラーを巻いた上品な雰囲気の、でもどこにも居そうなおばあさんがひとり、他の乗客とともに乗り込んできた。果たして席を譲るべきか逡巡してしまう微妙な年代の人たちもときどきおられるが、そのおばあさんは見事な白髪だったこともあり、よろしければと立って声をかけた。すると微笑んで、「あら、次の駅で降りるの」と丁重にお断りされた。おばあさんは向かい側のドアの前に立った。たったそれだけの、自然なやりとり。でも、もとの席にまた腰を下ろすときちょっとだけ恥ずかしくなるのはなぜだろう。
電車はあっという間に次の駅に到着し、私はおばあさんの言葉をもちろん疑ってなどいないけど、なんとなく降りる姿を見届けたいという気持ちで後ろ姿を捉えたままでいた。ドアが開こうというとき、不意におばあさんがこちらを振り返り、さらに一歩ぐっと私に近寄ると満面の笑みで、「ありがとね」と言って胸の前で右手をふりふり振りながら電車を降りていった。か、可愛い。なんて可愛らしい人なんだ。思いがけず、なにより嬉しくて私は胸がキュンとした。