2026/03/01 18:39
版木として使っている板はいつもホームセンターに買いに行く。
自転車を持っていないので散歩ついでに歩いていって、手で持って帰る。意外と重くて一度に1、2枚が限界。それを年がら年中コツコツ繰り返してきたわけだけど、ぎっくり腰をやってからそれも躊躇するようになった。
そこで昨日初めて配送を依頼してみた。購入した板をサービスカウンターへ持って行き、会員カードを見せて配送料500円支払ったら完了。当日の夜にはもう届いた。なんて楽なんだろうと拍子抜けした。ありがたいことだ。これからは配送だなと。今まで歩いて運んできた地道なる努力には、よくがんばりましたと自分を労った。
私が買うのは910×450mm、厚さ5.5mmのMDFパネル。購入後、ホームセンターの隅っこにある木材カットサービスコーナーで長辺を3等分してもらう。1カット50円。2カットで100円。
めずらしく昨日は若い女性店員が現れて対応してくれた。
自動カッターの刃は2~3mmの厚みがあるため、910をぴったり3で割った数字にはならないということと、どうしても数ミリの誤差は出るということ。毎回必ず最初にこの説明を受けるので、聞かずとも承知しているがまた承知する。
店員さんが巨大なマシーンの電源を入れると大きな作動音が鳴り出す。定規のメモリを調整して、そこに板をセットして、という作業工程をいつも後ろから見つめる。職人技のようで興味深い。
印象深い店員さんがひとりいる。この木材コーナーでカットをお願いしたことのある、定年退職後と思われる年配男性。立ち居振る舞いが柔和な老紳士でとても感じがよかった。老紳士は注意事項の説明のあと、恥ずかしそうに照れ笑いしながら「なんせ3等分しますから」とお辞儀して作業に入った。
数分後、驚いたことに数センチずつ長さの違った、不揃いな3枚の板が誕生した。老紳士が申し訳なさそうに困惑顔で戻ってきたもので、私は思わず笑ってしまった。どうしてこんなに違えるものだろう、とお互い思ったに違いない。
それでも私が版画に使いたい長さは確保されていたので問題はなく、全然大丈夫ですとそのまま受け取って帰ったのだった。
それにしても、じっと見られている中での作業は緊張するものだな。と改めて自覚するようになったのは、この半年バイト先でときどきテイクアウトのお茶を淹れるようになったから。ホットは紙コップに、アイスは氷の入ったプラスチックのカップに、急須でじっくり淹れたお茶を丁寧に注ぐ。お盆に乗せ、お茶請けに和三盆糖をひとつ添えてお渡しする。
自分ひとりのときはゆったりした気持ちで淹れられるものも、お客さんが見ている、なおかつ待っている、という状況だと普段のようにはいかなくなってしまう。プレッシャーで急須を持つ手が震えてくるときもある。自然を装おうとすればするほど不自然になって余計緊張する。美味しいお茶を飲んでもらいたい、願いはただそれだけのはずなのに。
あのときの老紳士も私と同じだったのかなあ。と、ふと思ったりした。意外と緊張していたのだろうか。
昨日の女性店員はじーっと私が見つめる中でも見事な3等分に仕上げてくれたので、まあ人それぞれ、なんとも分からないものだけど。
柔和な老紳士の、「なんせ3等分しますから」っていうなんだか訳のわからない決意表明みたいなひとことが、好きな思い出のひとつとして私の中にずっと残っている。

