2026/05/16 19:50

壁に耳をあてる。隣の部屋で、不審な何かが行われている。

コップをあてるとよく聞こえるよと友人が冗談ぽく教えてくれたけど、うちの壁には関係ないみたい。


女性がひとり、客の男性を迎えて、挨拶、短い談笑、手順の説明。

客がシャワーを浴びたあと、マッサージが始まるらしい。

マッサージと分かったのは、客の男が「血行が良くなりそう」って言うのが、聞こえたから。

私はいったい何をやっているんだ。


住んでいるマンションの隣の部屋が、風俗店になってしまったらしい。気付いてから数ヶ月経つ。

そのふたつ隣の角部屋もおそらく風俗店で、もともとそこが隣より先に越してきた。換気扇から四六時中、廊下に石鹸の香りを漂わせるようになった。

ごくありふれた風貌の若い男性が、スマホを覗きながらぎこちなくマンションの階段を上がっていくところに、二度ほど一緒になった。角部屋のチャイムが鳴らされて髪の長い女性が出てきて、それはすごく妙な空気だった。


その数ヶ月後に私の隣の部屋もそうなった。

一体全体なにがどうしてこうなるのか。ごくごく平穏だったこの小さなマンションで。


日によって、女性の喘ぎ声と客の大きな吐息がして、私はいよいよ気が滅入る。

毎回そこから10分と経たぬうちに、バタンとドアが閉まって、客は帰る。

客が帰ると、洗濯機が回される音がする。しばらくしてまた客が来る。洗濯機は何度も何度も回される。


心底空しい気持ちになる。これほど哀しいことがあるだろうか、と私は思っちゃう。


夕暮れどき、嫌気がさして、息が詰まりそうになって、散歩に飛び出る。

色々な人生がある。と、理解はしているつもりだったけど。やっぱり私は、わからないな。

買う客が絶えないこと。それが、女性というものの存在を貶めていくように思えて。


大きく息を吸って。正気を取り戻していく。眩しくゆれる木漏れ日の下。